不動明王の御真言には、短いもの、中くらいの長さのもの、長いものがあります。
一般には、短いものを一字呪・小呪・心呪、中くらいのものを不動慈救呪・中呪、長いものを火界呪・大呪と呼ぶことがあります。
この記事では、不動明王の御真言をはじめて調べる方に向けて、一字呪・不動慈救呪・火界呪の違いを整理します。
なお、御真言は寺院、流派、次第、資料によって表記や読み方に違いがあります。ここでは初心者の方が理解しやすいように、代表的な形を中心に紹介します。
不動明王の御真言とは

不動明王は、密教で大切にされる明王の一尊です。
怖い表情で表されることが多いため、怒りや恐ろしさの仏様と思われることもあります。しかし、その姿は人を脅すためのものではありません。
迷いや煩悩を断ち切り、正しい道へ導くための厳しい姿として受け止められています。
不動明王の御真言は、不動明王を念じ、身・口・意を整えて唱える言葉です。お寺での祈願、護摩、日々のお勤めなどで用いられることがあります。
不動明王の御真言には大中小がある

不動明王の御真言は、長さによって大きく三つに分けて説明されることがあります。
| 分類 | 呼び方 | 御真言の全文 | 特徴・どんな時に唱えるか |
|---|---|---|---|
| 小呪 | 一字呪・心呪・不動呪 | ノウマク サンマンダ バザラダン カン | 短く覚えやすいため、十三仏御真言など一般向けの経本にも載せられることが多い。 |
| 中呪 | 不動慈救呪・慈救呪 | ノウマク サンマンダ バサラダン センダン マカロシャダ ソワタヤ ウン タラタ カン マン | 不動明王の代表的な長めの御真言。節をつけて唱えやすく、祈祷や法要で用いられることが多い。 |
| 大呪 | 大呪・火界呪 | ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン | 長い御真言で、一般の参拝では耳にする機会が少ない。専門的な次第や修法で扱われることがある。 |
三つは、長さと使われる場面が違います。
- 小呪は短く覚えやすいので、檀家用の経本にも書かれている。短いので108回などの回数を多く唱える次第で唱える。
- 中呪は祈祷や法要で耳にすることが多い代表的な真言。リズムが良いので護摩祈祷など複数の僧侶が繰り返し唱える場面で使われる。檀家用の経本にも書かれる場合もある。
- 大呪は専門的な次第や修法で扱われる長い真言。あまり一般的では無い。
このうち、一般の方がお寺の法要や参拝で耳にする機会が多いのは、一字呪と不動慈救呪です。
火界呪は大呪とも呼ばれますが、日常の参拝や一般向けの案内では、一字呪や不動慈救呪ほど多く見かけません。
ただし、短いから軽い、長いから偉い、というものではありません。
御真言は、長さで優劣を決めるものではありません。長い御真言を唱えれば功徳が大きい、短い御真言では足りない、ということではないのです。
まず合掌し、姿勢を正し、一呼吸おいてから唱えます。早口で流さず、一音ずつ聞き取れる速さで唱えることが大切です。
小呪|一字呪(いちじじゅ)・心呪(しんじゅ)・不動呪


不動呪といえば、一般には短い御真言である一字呪・小呪・心呪を指します。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」
代表的には、次のように唱えられます。伸ばすところはー(伸ばし棒)で、一区切りの所はスペースで表しました。真言宗でも各派によって微妙に違ったりします。
「ノウマクサンマンダー バザラダンカン」
「ノウマクサーマンダバザラダンカン」
この短い御真言は、不動明王の御真言としてよく知られています。
短い形なので、はじめて不動明王に手を合わせる方にも唱えられる御真言です。
ただし、読み方や区切り方には資料によって違いがあります。「バザラダン」を「バサラダン」と表記する場合もあります。
ここでいう「一字」とは、最後の「カン」に重きを置いた呼び方と考えると分かりやすいでしょう。
「カン」は不動明王を表す種字としても知られています。梵字で不動明王を書く時にも、この「カン」が大切にされます。
中呪|不動慈救呪(ふどうじくじゅ)


不動慈救呪は、不動明王の御真言の中でもよく知られている中呪です。
ノウマク サンマンダ バサラダン センダン マカロシャダ ソワタヤ ウン タラタ カン マン
代表的には、次のように唱えられます。大体は同じなんですが、伸ばす所とンの所が唱える人や派によって微妙に違います。
「ノウマクサンマンダー バーザラダー センダンマーカロシャーダー ソワタヤウンタラターカンマン」
「ノウマクサーマンダー バーサラダー センダーマーカロシャーダー ソワタヤウンタラターカンマン」
一字呪よりも長く、不動明王の御真言として紹介される機会も多い形です。
「不動慈救呪」は、省略して単に「慈救呪」(じくしゅ)とだけ呼ばれることも多いです。慈救呪と言えば不動慈救呪を指します。
また、表記にも若干揺れがあります。「バサラダン」と書く場合もあれば、「バザラダン」と書く場合もあります。「ソワタヤ」「ソハタヤ」など、音の写し方に違いが見られることもあります。
これは、サンスクリット語や梵字の音を日本語に写しているためです。カタカナ表記だけで完全に一つの形に固定するのは難しい部分があります。
不動慈救呪の詳しい意味や、「慈救」という言葉の意味については、別の記事で解説します。
大呪|火界呪

不動明王の御真言には、大呪とも呼ばれる火界呪があります。
ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン
長いので不動明王 - Wikipediaからの引用
火界呪は、不動慈救呪よりもさらに長い御真言です。一般の参拝や日常のお勤めでは、一字呪や不動慈救呪ほど耳にする機会は多くありません。専門的な次第や修法の中で扱われることがあります。
そのため、初心者の方は、まず一字呪と不動慈救呪を知っておけば十分です。
私自身の経験では唱えたことは無いですし、法要や参拝の場で火界呪が唱えられている場面を見たこともありません。
不動佛心咒は不動明王の真言では無い
ネット上では、繁体字で「不動佛心咒」という表記を見かけることがあります。
ただし、これは不動明王ではなく、阿閦如来、別名「不動仏」の真言です。そのため、日本で一般的にいう不動明王の御真言ではありませんので注意してください。
どの御真言を唱えればよいのか
はじめて不動明王の御真言を唱える方は、まず一字呪からでよいでしょう。短く唱えやすく、不動明王の御真言として広く知られています。
お寺で不動慈救呪を教わった場合や、手元の経本に不動慈救呪が載っている場合は、不動慈救呪を唱えてもかまいません。長ければ良いという訳ではありませんので、唱えやすい御真言、続けやすい御真言を選んでよいでしょう。
自宅で手を合わせる場合は、無理に難しい真言を覚えようとする必要はありません。まずは姿勢を整え、合掌し、落ち着いた心で唱えることが大切です。
「咒」や「呪」は怖い言葉なのか
「咒」や「呪」という字を見ると、誰かを呪う言葉のように感じる方もいるかもしれません。
しかし、仏教でいう咒や呪は、誰かを害する呪いという意味ではありません。
詳しくは、咒とは何かを解説した記事で紹介します。
咒とは?仏教で使われる「呪」や「咒」の意味をわかりやすく解説
梵字で書く場合は表記の違いに注意する
不動明王の御真言を梵字で書く場合、資料によって表記が違うことがあります。これは、他の仏様の御真言などでも見られることです。同じように読まれる御真言でも、梵字の形や読み方が異なる場合があります。これは、書法や流派の違い、また時代の違いでも梵字の異体字があるためです。
円覚寺でも、梵字で書写する場合は、どの資料をもとにするのかを決めて写すようにしています。寺院に伝わる資料などがある場合は、その寺院で大切にされてきた形を継承する場合もあります。
不動明王の種字「カン」「カンマン」と御真言の関係
小呪の最後に出てくる「カン」と、慈救呪の最後に出てくる「カンマン」は、不動明王を表す種子(しゅじ)としても知られています。梵字なので種字と書かれている資料も見かけますが、正しくは種子です。仏様を一字で表す梵字のことです。
不動明王を梵字で表す時には、「カン」や「カンマン」の種子が用いられます。御真言は声に出して唱える言葉であり、種子は不動明王を一字で表す梵字です。
不動明王の梵字「カン」「カンマン」については、別の記事で詳しく紹介します。
不動慈救呪の意味を詳しく知りたい方へ
この記事では、不動明王の御真言を、一字呪・不動慈救呪・火界呪の三つに分けて整理しました。
不動慈救呪の言葉の意味、「慈救」という言葉の意味、不動明王の怖い姿と慈悲の関係については、別の記事で詳しく解説します。
まとめ
不動明王の御真言には、短い一字呪、中くらいの不動慈救呪、長い火界呪があります。長さによって小呪・中呪・大呪と分けて説明されることがありますが、これは優劣を表すものではありません。
一般に不動呪といえば、一字呪・小呪・心呪と呼ばれる短い御真言を指すことが多いです。短く唱えやすいため、はじめて不動明王の御真言にふれる方にも覚えやすい形です。まず知っておきたい基本の御真言と考えてよいでしょう。
不動慈救呪は中呪とも呼ばれ、不動明王の代表的な御真言として知られています。一字呪より長く、不動明王の法要で広く用いられます。「慈救」という言葉の意味を知ると、不動明王の厳しい姿だけでなく、救いの働きも知ることが出来ます。
火界呪は大呪とも呼ばれますが、一般の参拝では耳にする機会は多くありません。知識として名前を知っておくのはいいですが、一般の方が覚える必要はありません。日常のお参りでは、一字呪や不動慈救呪を唱える場面の方が多いでしょう。
初心者の方は、まず一字呪と不動慈救呪を知っておけば十分です。自宅で手を合わせる場合は、唱えやすい御真言を選んでかまいません。ただし、お寺の法要や護摩祈祷など声に出しにくい場所では、心の中で唱えてもよいでしょう。
御真言は、長ければよい、短ければ悪い、というものではありません。長い御真言を唱えれば功徳が大きい、短い御真言では足りない、ということではないのです。合掌し、姿勢を正し、心を込めて一音ずつ唱えることが大切です。

